日付のある風景













2023.04.08 - 2023.06.04
Solo Exhibition
Glvanize gallery (宮城県石巻市中央2-4-3 石巻のキワマリ荘1F)
日付のある風景
まず日記を書くことから始まった。
2 0 2 1 年 、こ れ か ら ど う や っ て 創 作 を 続 け て い け ば い い の か を 考 え て い た 。 他 者 と 共 に 生 き て い く 中 で 、自 分 の 生 き 方 や 態 度 が 変 わ っ て い く 、 その変化を受け入れながら作り続ける方法を探していた。社会性や思想を安易に適応することで作品の背後を想像させること、それによっ て作品に説得力を持たせようとすることに疲れはじめていた。表面的な意図が伝わったとしても、それは作者と鑑賞者の間で行われる情報 交換で、手持ちの情報をいくら交換(解釈)しあっても、その行為が何処か新しい場所へと連れて行ってくれるわけではないという事に気 がつき始めていた。かといって内に閉じこもればいいということでもなかった。もっと違う回路を見つけて、そこから始めなければいけないと いう気持ちが強くなっていた。そんな日々の中で日記を書き始めた。それが何かになるとは思わなかったが、続けていけば今とは違う場所 にたどり着いているかもしれないという期待があった。生活と創作を折り重ねていくことで、今までとは違う回路が見つかるのではないかと 考えていた。おおよそ 1 年間書き続けて、翌年の 2022 年から日記ではなく写真を撮るようになった。始めた動機は同じだった。撮るべき ものがあったわけではないが、毎日撮ること、ただ撮ること、というルールのものと 1 年間撮り続けた。
なんてことない風景のなかで
毎日撮り続けていると日々の中に取り立てて撮るべきものが満ちているわけではないことに気が付いていく(決定的な瞬間と毎日のように出 会うなんてことはない)。目の前に広がるのは、なんてことない日々の風景であり、月並みな風景だ。それは何処にいたって同じで、毎日続 けることは(見続けることは)、スカスカな日々と風景に向き合うということでもあった。それでいいと思った。そこに無理やり何かを見出す のではなく、なんてことないものをそのまま撮ること、月並みで特別なものがあるわけではないからこそ、そこにあるものが具体的なものとし て見えてくる。取り立てて撮るべきものがない日々の中でシャッターを押し続けた。撮るべきものがないということは、撮るべきものの外へと でることでもあった。それはとても清々しいことだった。
生活と創作
生活は創作のためにあるわけではないし、創作は生活の全てではない。創作のために生活をでっちあげたくはなかったし、生活と切り離さ れた場所で創作をしようとも思わなかった。生活と創作の間で考え続ける方法を探していた。生きながら撮ることと撮ることが生きることで あることの間を揺れ動きながら撮っていた。
日付と風景
すべての日記には日付がある。撮られたすべての写真にも日付がある。今日という限定された時間の中で写真を撮り、(日記を書き)そし て次の日がやってくる。日付は感傷的なものに誘われない。昨日があり、今日があり、明日があるということの単純な連続性(と非連続性) を素気なく表すだけで、安易に普遍性へと向かうことを妨げる。日付は出来事と場所と人を結びつける。風景が具体性を帯びて見えてくる。 個別の風景がそこに見えてくる。日付のある風景は具体的で個別の風景をそこに見ること、感傷や普遍性に向かわずに風景を見ることの中 で生まれる。
ただ撮る(見る)こと
対象(他者)を何かを暗示させるために利用しないこと、作者(自己)の内面を表出(表現)させる場所として利用しないこと、それは 他者を他者として見ることであり、そこにあるものが、ただそこにあるものとして見えてくることでもある。ただ撮る(見る)ことで世界との 回路が生まれ、関係性が生まれ、風景が生まれる。そうやって生れる風景の中に新しい表現の回路を見つけようとしていた。
日々の中で
このプロジェクトは日記を書き始めた頃を含めれば今年で 2 年目になる。2 年も経ったという感じでもあるし、2 年しか経っていないという感 じでもある。まとまった答えを見つけたわけではないし、これからも考え続けることになると思う。このプロジェクトは今後も続けるつもりで いる。数年後には風景の見方も考え方も少し変わっているかもしれない。少なくとも2 年前と今では、風景の見え方も考え方も変わっている。 写真で日常を写したいわけではないが、作品が日々の生活と関係のない場所に存在するとは思わない。その間で考え続けたいたし、自分 の関わる世界(美術)とは関係のない人々から何かを問われた時、ちゃんと何かを答え返せるような物を作り続けたいという気持ちが日々 強くなってきている。
2023.03.15 鹿野颯斗